ЯEVOL / MANIC STЯEET PЯEACHEЯS

ミスター・レーニン*1 少年を奮い起こし

ミスター・スターリン*2 バイ・セクシャルの夜明け

フルシチョフ*3 鏡に映る自分に溺愛

ブレジネフ*4 グループ・セックスに夢中

ゴルバチョフ*5 自惚れに生涯を捧げ

エリツィン*6 失策インポ野郎

 

リヴォル-リヴォル*7

リヴォル-リヴォル

生存圏*8-文化闘争*9

失せろ失せろ!(raus raus)*10

逃げろ逃げろ!(fila fila*11

 

ナポレオン*12 いつまでも幼馴染を忘れられず

チェンバレン*13 自分を神だと勘違い

トロツキー*14 ハネムーンの最中 全裸のセレナーデ

チェ・ゲバラ*15 今やお前は皆の標的

ポル・ポト*16 落ちぶれ野郎 失せやがれ

ファラカン*17 離婚料ですっからかん 

 

リヴォル-リヴォル

リヴォル-リヴォル

生存圏-文化闘争-

失せろ失せろ!(raus raus)-逃げろ逃げろ!(fila fila

 

リヴォル-リヴォル

リヴォル-リヴォル

生存圏-文化闘争-

失せろ失せろ!(raus raus)-逃げろ逃げろ!(fila fila

*1:ロシアの革命家・政治家ウラジーミル・レーニンVladimir Lenin, 1870~1924年)。1917年のロシア革命の主導者であり、史上初の社会主義国家であるソビエト連邦、およびソ連共産党ボリシェビキ)の初代指導者を務めた(1917~1924年)。マルクス主義理論の研究者としても知られ、マルクス・レーニン主義という革命の指導理念を樹立した。ちなみに、日本での漢字表記は「冷忍」である。

*2:ソビエト連邦の政治家・軍人ヨシフ・スターリンJoseph Stalin, 1878~1953年)。ソビエト連邦の第2代最高指導者を務めた(1924~1953年)。レーニンの死後、トロツキー(注14参照)との後継者争いを制すると、自身の政策に反対する政治家・党員・軍人・民衆を片っ端から虐殺するなど(大粛清)、独裁恐怖政治を行ったことで知られる。

*3:ソビエト連邦の政治家、ニキータ・フルシチョフ(Nikita Khrushchev, 1894~1971)。同国の第4代最高指導者を務めた(1953~1964年)。スターリンの死後、スターリン崇拝の禁止、集団指導を掲げ、ソ連民主化を図った。彼が暴露したスターリン独裁・恐怖政治、世界中に衝撃をもたらした。対外政策としては、西側諸国との平和共存や核実験の抑制に尽力した一方、中国アルバニアハンガリーなど他の社会主義国との対立・紛争が目立った。

*4:ソビエト連邦の政治家レオニード・ブレジネフ(Leonid Brezhnev, 1907~1982年)。フルシチョフを失脚させた後、同国の第5代最高指導者を務めた(1964~1982年)。冷戦の緊張緩和に努め、核軍縮を進めたものの、政治改革に対しては慎重な姿勢を取り、ソ連停滞の時代を招いたとされる。

*5: ソビエト連邦およびロシア連邦の政治家ミハイル・ゴルバチョフMikhail Gorbachev, 1931~)。ソ連の第8代最高指導者(ソ連最後の最高指導者)を務めた(1985~1991年)。ソ連の政治経済の抜本的改革を目指し、ペレストロイカ(政治改革)とグラスノスチ(情報公開)を行ったことで知られる。冷戦を終結させた功績から、西側諸国では英雄的な人気を博し、「ゴルビー」の愛称で親しまれている。1990ノーベル平和賞受賞。ただし、アメリカと並ぶ二強国であったソ連の崩壊を導いたことから、ロシア国内では評価が分かれている。

*6:ロシア連邦の政治家ボリス・エリツィンBoris Yeltsin, 1931~2007年)。同国の初代大統領を務めた(1991年~1999年)。 ソ連崩壊後、ロシア連邦民主化を主導したが、「ショック療法」と呼ばれる急速な経済自由化はハイパーインフレを引き起こし、多くの国民を貧困に追いやった。また、チェチェン侵攻の失敗、新興財閥との癒着、汚職摘発を行った首相を解任するといった独裁的な振る舞いから、国民の支持はどん底まで低下、「役立たず」と称されることもあった。

*7:本曲のタイトルとなっている“Revol”は、“Revolution(革命)”を意味すると同時に、“Lover(恋人)”を逆さまにスペルしたものでもある。著名な指導者・革命家の名前を並べ、愛や性に関する(ほとんど不当な)侮辱によって彼らを次々に切り捨てていくこの曲は、作詞者のリッチー・エドワーズによると、すべての政治や愛は失敗に終わるという絶望から生まれたものだと言う。あまりにも悲観的な見方ではあるが、リッチーに言わせれば、だからこそ私達は現実を直視しなければならないというところだろうか。

*8:生存圏(Lebensraum: レーベンスラウム:ドイツ語)。国家が自給自足を行うために必要とする、政治的支配が及ぶ領土のこと。この生存圏という用語の背後には、国の人口増加などによって国力が高まると、より多くの資源が必要となるため、自国領土の拡張は国家の当然の権利である、という思想がある。アドルフ・ヒトラーが著書「我が 闘争」の中で言及したことによって有名になった。

*9:文化闘争(Kulturkampf:ドイツ語)。1871~78年にかけて、ドイツ帝国宰相ビスマルクが行った、カトリック教会に対する弾圧政策。カトリック教会が持つ政治的・社会的影響力を低下させることを目的に行われた。

*10:ドイツ語。英語の“out”に相当する。“Auslander raus”と言えば、“Get Out(失せろ)”といった意味になる。

*11:イタリア語。英語の“queue(列)”に相当し、“formare una fila” と言えば、“make a queue(列を作る)”という意味になる。ただし、“Fila!”と叫んだ場合は、“run away!(逃げろ!)”という意味になる。余談であるが、ニッキー・ワイアーは、イタリアのスポーツ用品メーカーFILA(現在は韓国企業となっている)のトレーナーを好んで着用していた。

*12:フランスの軍人・政治家ナポレオン・ボナパルトNapoléon Bonaparte, 1769~1821年)。フランス革命後、軍事独裁政権を樹立。ヨーロッパ大陸の大半を支配下に置いたフランス帝国の皇帝として広く知られている。

*13:イギリスの政治家ネヴィル・チェンバレンNeville Chamberlain, 1869~1940年)。同国の第60代首相を務めた(1937~1940年)。チェンバレンナチスドイツに対して宥和政策を取らなければ、第二次世界大戦ホロコーストは回避できたとして、非難されることが多い。

*14:ソビエト連邦の政治家レフ・トロツキーLev Trotsky, 1879~1940年)。1917年 のロシア十月革命における指導者の一人であり、レーニンに次ぐ中央委員会の一員であった。ソビエト連邦においても外相として活躍したが、レーニンの死後、 スターリンをはじめとするソ連共産党の多数派と対立、孤立したトロツキーは、最終的に除名・国外追放されることとなった。追放後もスターリン体制に反対し続けたが、1940年、スターリンの刺客によって暗殺される。以後、各国共産党において「トロツキスト」とは「党の裏切り者」を指す名称として使われた(トロツキーの思想下にあるなしとは関係なく)

*15:キューバのゲリラ指導者チェ・ゲバラ1928~1967年)。1950年代後半、フィデル・カストロとともに、アメリカの支援・庇護のもとにあったバティスタ政権を武力闘争によって打倒(キューバ革命)。文筆家としても知られ、彼の思想やライフスタイルは、多くの人々を惹きつけてやまない。

*16:カンボジアの政治家ポル・ポトPol Pot, 1928~1998年)。民主カンプチアの第3代(1976年)、5代首相(1976~1979年)、初代カンボジア共産党書記長(1963~1985年)を務める。「知識は人々の間に格差をもたらす」として、医師・教師・技術者・芸術家など知識人の大虐殺を行ったことで知られる。

*17:アメリカのイスラム教指導者ルイス・ファラカン1933~)。白人との共生を拒否し、黒人至上主義を説く過激組織ネーション・オブ・イスラム(アメリカにおける黒人のイスラム運動組織)の指導者。同組織は伝統的なイスラム教の教義から大きく逸脱しているため、他のイスラム教徒からはイスラム教団体として認められていない。

AЯCHIVES OF PAIN / MANIC STЯEET PЯEACHEЯS

“お前は一体自分を何者だと思ってるんだい?お前は自分が神か何かだと思ってるんだろう?神は命を授け、それを奪う。お前じゃない。お前は悪魔そのものだ*1

 

もし病院が治療の場であるなら

監獄は苦痛をもたらす場であるはず

刑戮を恥じることはない

人間性の根源は残虐さなんだから

罪の償いなど存在しない

どんなバカでも昨日を後悔することはできる

だから貴族院*2に抗議しろ

お前も殺人者として同じ棺で埋められることになるぞ

殺人者として 殺人者として

 

絞首台に吊るされた青白い死体の方が

ヒンドリーのクローシェ講義より正当であるはず*3

懺悔ではなく苦痛を 受刑者のことなど忘れ 犠牲者のことを覚えていろ

若くして惨殺された弱者達 我々は今こそ彼らに歩み寄らなければならないんだ

 

エリツィン*4を殺せ! なんて誰が言ってる?

ジリノフスキー*5や ル・ペン*6

ヒンドリーとブレイディ*7や アイルランド*8や アリット*9や サトクリフ*10

ダーマー*11や ニルセン*12や ヨシノリ・ウエダ*13

ブランシュ*14や ピックルズ*15や アミン*16や ミロシェヴィッチ*17

奴らに相応の敬意を払ってみろよ

俺は相応の敬意を払ってやるぜ*18

俺は相応の敬意を払ってやるぜ

俺は相応の敬意を払ってやるぜ

 

死刑執行は必要とされる

血塗られた器具は 我々の安息のため

もし人が死を生み出せば 死もまた人を捕らえる*19

馬と鎖で 身体を四つ裂きにしてやればいい

殺人者達は 自己を世界に投影し

自分自身の欠陥を掻きむしる*20

減刑ではなく 更なる苦痛を

レイプ犯を去勢しろ 俺が提唱しているのは奴らの根絶だ

 

エリツィンを殺せ! なんて誰が言ってる?

ジリノフスキーや ル・ペンを

ヒンドリーとブレイディや アイルランドや アリットや サトクリフを

ダーマーや ニルセンや ヨシノリ・ウエダを

ブランシュや ピックルズや アミンや ミロシェヴィッチ*21

奴らに相応の敬意を払ってみろよ

俺は相応の敬意を払ってやるぜ

俺は相応の敬意を払ってやるぜ

俺は相応の敬意を払ってやるぜ

 

(※イギリスでは1969年に死刑制度が廃止されているが、その死刑制度の復活に言及したこの曲は、マニックスの曲の中でも最も多くの誤解・批判・論争を引き起こしてきた。ただし、作詞者のニッキー・ワイアーによると、この曲は決して、死刑制度の支持や報復行為の正当化を目的として書かれたものではなく、当時の社会に拡がっていた連続殺人犯・独裁者を英雄として美化・神格化する風潮へのアンチテーゼとして書かれたものであるという)*22

*1:冒頭のサンプリングは、イギリスの連続殺人犯ピーター・サトクリフ(脚注10参照)によって娘を殺害された母親のインタビューから。

*2:庶民院とともにイギリスの立法府を構成する議院(上院)。2009年に連合王国最高裁判所が新設されるまで、最高裁判所としての機能も有していた。

*3:ヒンドリー→イギリスの連続殺人犯マイラ・ヒンドリー(脚注7参照)。

*4:ロシア連邦の政治家ボリス・エリツィンBoris Yeltsin)。同国の初代大統領を務めた(1991年~1999年)。ロシア連邦民主化を主導したが、「ショック療法」と呼ばれる急速な経済自由化はハイパーインフレを引き起こし、多くの国民を貧困に追いやった。また、チェチェン侵攻の失敗、新興財閥との癒着、汚職摘発を行った首相を解任するといった独裁的な振る舞いから、国民の支持はどん底まで低下、「役立たず」と称されることもあった。

*5:ロシアの軍人・極右政治家、ウラジーミル・ジリノフスキーVladimir Zhirinovsky)。反ユダヤ主義、生放送中の暴 力沙汰、数々の暴言(「日本が北方領土を返せと言うなら、もう一度原爆を落としてやろう」「世の中の女は俺の物だ。犯してやる」)等、話題に事欠かず、危険人物として知られる一方、多くの国民の失笑と好奇の眼差しを集めている。ジリノフスキーは、ロシア自由民主党の設立者で党首でもある。この政党はその名前とは異なり、実態は過激な民族主義政党である。

*6:フランスの極右政治家、ジャン=マリー・ル・ペン(Jean-Marie Le Pen)。EUからの脱退・移民排斥・国籍取得制限の強化などを唱える極右政党国民戦線の創始者・初代党首。

*7:イギリスの連続殺人犯マイラ・ヒンドリー(Myra Hindley)とイアン・ブレイディ(Ian Brady)。1963~64年にかけて、10~17歳の少年少女5人を性的暴行した後に殺害。後に発見されたカセット・テープには、彼らが嬉々として被害者の少女を拷問にかけている様子が録音されており、彼らはイギリス至上最も残虐非道なカップルとして国民を騒然とさせた。特にヒンドリーは罪の意識が薄 く、度々釈放を求めたり、獄中のクローシェ(編み物)クラブに参加したりしていたという(2002年、獄中にて病死。ブレイディは現在も獄中にて存命)。ちなみに、The Smithsの「Suffer Little Children」という曲も、当事件を題材にしている。また、Sonic YouthのGooのジャケットは、ヒンドリーとブレイディによる犯行の目撃者・通報者となったデヴィッド・スミス(David Smith)と彼の妻でヒンドリーの妹モーリーン(Maureen Hindley)の写真を絵画に描き直したものである。

*8:イギリスの連続殺人犯コリン・アイルランド(Colin Ireland)。1993年、同性愛者が集うパブで出会ったゲイの男性5名を殺害。犯行の動機は、「連続殺人者として自分の名前を後世に残すため」(5 人殺すとFBIに連続殺人犯として認定されるという理由から、5人を殺害。アイルランド自身はゲイでもなんでもなく、単に殺しやすいという理由でマゾのゲイ男性を標的にした)。2012年、獄中死。

*9:イギリスの連続殺人犯ビバリー・アリット(Beverley Allitt)。1991年、看護婦であった彼女は、入院中の幼児13名に大量の薬物を投与。そのうち4名が死亡、一命を取り留めた幼児も重度の脳障害等を負うことになった。彼女の犯行の動機は、「世間から注目されたい」というものであり、終身刑を宣告された後も、謝罪の言葉を一切述べていない。現在は精神病院に収容されている。

*10:イギリスの連続殺人犯ピーター・サトクリフ(Peter Sutcliffe)。1975~80年にかけて、13名の女性を殺害。犯行の動機は、女性への憎悪。彼は、自身のインポテンツを売春婦に笑いものにされ たことをきっかけに、殺人に手を染めるようになった。被害者の多くは売春婦であったが、主婦・学生・公務員もいた。殺人の手口が切り裂きジャックと似ていたことから、「ヨークシャー・リッパー」と称されている。

*11:アメリカの連続殺人犯ジェフリー・ダーマー(Jeffrey Dahmer)。1987~1991年にかけて、17名の青少年を殺害・屍姦・人肉食を行った。同性愛者で、極度の内気であった彼は、「自分を決して裏切 らない従順な恋人が欲しい」という動機から犯行に及ぶ。彼の犯行は全米の注目を集め、「ミルウォーキーの食人鬼」の異名が与えられるとともに、映画化され、フィギュア人形まで製作・販売されるようになった。1994年、獄中にて他の囚人に撲殺される。

*12:イギリスの連続殺人犯デニス・ニルセン(Dennis Nilsen)。1978~83年にかけて、およそ15名(正確な数は不明)の青少年を殺害。犯行の動機は、「ずっと孤独だったため、誰かと一緒にいた かった」というもの。同性愛者だった彼は、酔った勢いで家に招いた男性を帰らせたくない一心で殺害、その死体の衣服を着せ替えたり、一緒にテレビを見たり、添い寝したり、ということを何度も繰り返した。彼は死体をとても大切に扱い、腐臭のために余儀なくされる解体・焼却の辛さを紛らわせるためには、大量のアルコールを必要としたと言う。公務員でもあった彼は、真面目で仕事熱心で、穏やかな人物であったとも言われている。現在も獄中にて存命。

*13:日本の連続殺人犯・自称犬訓練士、上田宣範。1992~93年にかけて、大阪府の男女5名を薬物にて殺害。上田が愛犬家であったことから、愛犬家連続殺人事件と呼ばれている。死刑確定。

*14:南アフリカの極右政治家ユージン・テレブランシュ(Eugène Terre'Blanche)。白人至上主義を唱え、同国におけるアパルトヘイトの維持を強硬に訴えるアフリカーナー抵抗運動の指導者。

*15:イギリスの法廷弁護士ジェイムズ・ピックルズ(James Pickles)。「レイプは挑発的な女性の方に責任がある」と主張し、レイプ犯の減刑を行うなど、いくつかの疑惑の判決を下したことで知られる。

*16:ウガンダの軍人・政治家イディ・アミン。同国の第3代大統領を務めるも、独裁政治を行う。ウガンダ国内のインド系の排斥、国民30万人の虐殺などから、「黒いヒトラー」「アフリカで最も血にまみれた独裁者」と称される。1979年、サウジアラビアへ亡命、2003年、病死。

*17:セルビアの政治家ズロボダン・ミロシェヴィッチ(Slobodan Milošević)。セルビア社会主義共和国、およびセルビア共和国の大統領を務めた。ミロシェヴィッチ政権によって、セルビアの国際的な孤立、国民の生活の困窮、周辺国への軍事介入(とその敗北)がもたらされたため、多くの国民から独裁者と見なされている。2000年、コソボ紛争でのアルバニア人に対するジェノサイドの責任者として起訴され、逮捕・収監された。2006年、獄中にて病死。

*18:ファシズムの指導者や連続殺人犯といった連中は、一切敬意を払うに値しない。これが連中に相応だということ。これらの人物を神格化する風潮に対する反対の意が表明されている。

*19:人を殺した者は、その行為のために殺されなければならないということ。

*20:殺人者は、自己嫌悪を自分だけでうまく処理することができず、自己を他者に投影し、その他者を残虐な方法で傷付けたり殺害したりする。

*21:この箇所は、歌詞では“Milosevic”となっているが、実際には“Manic Street Preachers”と歌っている。これら独裁者や殺人犯と自分達のバンド名を同列に並べるというのは、単なるジョークに過ぎないのかもしれないが、もしかすると、苦痛を求めるという自分達の主張が、果たして正当なものか、あるいは、これら独裁者や殺人者のリストに自分達の名を連ねてしかるべき愚かなもの なのか、その是非を問うているのかも知れない。

*22:この曲については、作詞者のリッチー・エドワーズ自身の政治的立場を表明した曲であるとか、死刑制度を賞賛する極右的人間が醸し出す狂気を第三者的目線で眺めた曲であるとかいったように、これまで様々な解釈がなされてきた。また、死刑制度を支持するかと思えばそのような右翼的立場への反対を表明するといったリッチーの矛盾した態度も、解釈をより混乱させている。リッチーが失踪した現在、この曲の真意は藪の中であるが、共同作詞者のニッキーはこの曲について、「連続殺人犯や独裁者を英雄視する風潮を批判したもの」と述べている。ここでは、リッチーとニッキーがこの曲のインスピレーション源として挙げている、フランスの哲学者ミシェル・フーコー(Michel Foucault)の著者『監獄の誕生-監視と処罰』(1975年)に基づく形で、ニッキーのこのコメントをより詳細に検討してみたい。

 フーコーのこの著作は、西洋社会における処罰方法の変遷、それに伴う人間の規格化と監視社会の誕生を論じたものである。18世紀の西洋社会において、犯罪者に対する処罰は恐ろしく残虐なものであった。公衆の面前に設置された処刑台の上で、熱した鉄や油で身体を徹底的に傷付け、四頭の馬に引かせて体を四つ裂きにし、引き裂かれた手足胴体を焼き尽くし、その灰をまき散らすといったことが行われていた。しかし、このような過度に暴力的な処罰は、決して当時の刑罰制度の「野蛮さ」を示すものではない。それはむしろ明確な政治的技術であった。つまり、18世紀の処罰は、「国王への反乱を企てるような存在(=犯罪者)」を徹底的に無力化し、国王が神聖不可侵であることを国民に見せつけるために、過激な「華々しさ」を必要としたのであった。

 だが近代に入り、《人間性》の観念が登場すると、このような過激な処罰は急速に消滅し、より穏やかな方法、受刑者を独房に閉じ込めその自由を奪うという監獄制度が生み出されることとなった。そこでは、社会に害悪をもたらさない良き市民を作るという名目のもと、精神と身体の矯正が行われるようになった。

 現代に生きる私達からすれば、悪人を善人に矯正し社会復帰させる監獄制度は、同じ社会の安定を目的とした処罰方法でも、18世紀のものと比べて極めて人道的な処罰方法であると思われるだろう。しかしフーコーによれば、監獄制度は人道的な方法でもなんでもなく、「身体よりも生命に打撃を与える」ものであった。と言うのも、監獄制度は、単に悪人を善人に矯正するといった意味合いのものではなく、人間の多様な生のあり方を強制的に「正常/異常」の二つに分類し、「異常」の側に分類された人間を「正常」へと矯正するといった(暴力的な)統制技術を行使する制度なのである。よりわかりやすく言い換えれば、それは、人間を、特定の社会のルールに沿わないという理由によって「異常」と見なし、訓練を施して社会適合的な「正常」な人間に矯正するという「人間の規格化」を行うものなのである。

 実際のところ、監獄制度がもたらしたこの人間の規格化という統制技術は、本来の目的であった犯罪の抑制よりも、より広範な社会の管理に役立てられることとなった。この技術は、今や監獄のみならず、学校・軍隊・精神病院・企業などで活用されている。この意味で監獄制度とは、現代社会の「原型」なのである。そして、このような統制技術が一般市民の日常意識の中に自明のものとして浸透した現代社会においては、人々は自ら進んでお互いを監視し始めるようになる。人々は自身の生活圏内に「正常」から逸脱した振る舞いをする者がいないかどうか常に目を光らせる。また、自分自身が「異常」と見なされることを極度に恐れ、努めて「正常」であろうとする。このようにして人間の規格化は、人々に気づかれないほど微細だが日常の細部にまで深く浸透する見えない権力作用となる。かつて18世紀の権力は、過激な身体刑に象徴されるように、人々を外部から強制的に統制・拘束するものであったが、近代以降の権力は形を変え、前近代的な拘束から開放された人々の自由意志の中にこそ宿るものとなった。言い換えれば、私達は自らの主体的な意思によって、実体なき監獄に監禁され続けているのである。

 以上がフーコーの議論の概略であるが、これに照らし合わせると、本曲「Archives of Pain(苦痛のアーカイブ)」が何を問題としているのかも明確になるだろう。この曲は、(一見そう見えるものの)連続殺人犯や独裁者といった絶対悪を地上から追放せよといった極右的主張を行うものでもなければ、死刑制度の是非を問うことを主題とするものでもない。この曲が問題とするのは、あくまで、何の変哲もない生活を送る私達一人ひとりの日常的な意識であり、中でも、私達が素朴に信じ込み強化し続ける「正常/異常」の二分法、そして、「異常者」に対する思慮なき矯正・排除・隠蔽なのである(この点で、この曲は、Holy Bibleの3曲目「Of Walking Abortion(歩く中絶児)」と関心を共有している)。

 近代社会において私達は「異常者」を常に監視し、矯正・排除・隠蔽してきた。だが、まさにそのことから、社会から忌避される「異常者」はしばしば、社会に反旗を翻す一種の逆立ちした英雄として神格化されてきた。連続殺人犯や独裁者は、英雄として崇拝の対象となり、崇拝者の中には、自ら残虐行為に手を染めることで、そのような英雄と同一化しようとする者まで現れ出した(今や連続殺人犯の犯行動機として最もよく聞かれるのは、怨恨や報復などといったものではなく、「殺人犯として世間の注目を集め、歴史に自分の名を残したい」というものである)。重要なのは、こうした殺人犯や独裁者への倒錯した関心は、近代社会による「異常者」の矯正・排除・隠蔽の副産物であるということだ。つまり、これら殺人犯や独裁者の英雄視は、彼らを絶対悪と見なすような思考と軌を一にしており(同じコインの裏表であり)、結局のところ、彼らへの無関心≒一面的理解から生まれるものに過ぎないのだ。

 ここまで議論を進めれば、ニッキーによる「連続殺人犯や独裁者を英雄視する風潮への批判」というコメントもよく理解できるだろう。本曲「苦痛のアーカイブ」による批判の焦点となっているのは、悪というものに対する私達の無関心≒一面的理解である。したがって、この曲が求めるのは、私達が悪について今よりももっと詳しく知ることであり、その上で、私達の平和や安寧な生活について考えることなのである。

 では、悪を知るために私達にできることは何だろうか?ひとつの方法は、歌詞の一節に「受刑者のことなど忘れ 犠牲者のことを覚えていろ」とあるように、悪の犠牲になった者(=被害者)に、より多くの関心を向けることだろう。メディアをはじめとして私達は、悪を為したもの(加害者)の方にばかり注目しがちである(それも好奇の眼差しを持って)。だが、被害者に徹底的に目を向けることによって、私達は、人間の悪行を無条件に恥ずべきことであると見なすような(それゆえ議論の余地がないと見なすような)短絡的思考から離れ、悪というものが孕む本当の残虐さ凶暴さを知ることができ、また、そのような残虐さ凶暴さが実は自分の心の中にも宿るものであることを理解することができるだろう。

 そしてこの曲が提唱するもう一つのやや過激な方法が、死刑の実行という形で、私達自身が悪を背負うこと、また、そのことに自覚的になることである。自らを善良であると見なす者ほど、悪について考えない。自分自身も悪を担っているということを意識することによって、私達は悪について真剣に考えるようになる。確かに、フーコーの著作に見られる18世紀の残虐な処罰方法は決して望ましいものではないだろう。だが、人道主義の名の下に無関心を蔓延させ、自分達の平和や安息が殺戮・搾取の上に成り立っているということを忘れているような私達にとっては、もしかすると、それも必要であるのかもしれない(リッチーは、死刑執行の様子をテレビ中継し、その様子を、子供を含め全ての人が見ることが、教育上望ましいと考えていた)。

 以上、多くの誤解・批判・論争を引き起こした「苦痛のアーカイブ」についての、ひとつの解釈を示してきた。もちろん、このように解釈しても、本曲にはまだ矛盾・疑問点が残る。特に、苦痛を過激に強調した死刑を支持するというのが本当に有効なやり方だったのかという点は、まだまだ議論の余地があるだろう(マニックスの数ある論争的な曲の中でも、この曲は特に、リッチーとニッキーが恐る恐る発表したものだったと言われているが)。だが、いずれにせよ、このような曲を通じて少しでも多くの議論が生まれ、少しでも多くの人の感受性が高まることは望ましいと思われる。

SHE IS SUFFEЯING / MANIC STЯEET PЯEACHEЯS

美は 自分自身の中に安息を見出し

恋人達は 互いの吐く嘘に覆われてしまった

美は こんなにも忌まわしいもの

彼女*1 は 死をも凌ぐ苦痛

 

彼女は 苦痛*2

彼女は君の奥底まで舐め入ってくる

彼女は 苦痛

君は彼女の影の中に存在する

 

美 彼女は 人類の魂に傷跡を残す

肉欲 悪徳 罪業を惹きつける麗花 

樹木から生命を絞り取る蔦

周囲を飛び交い 葉々の腐肉を貪る烏

 

彼女は 苦痛

彼女は君の奥底まで舐め入ってくる

彼女は 苦痛

君は彼女の影の中に存在する

 

美 彼女は あらゆる背徳者達にとっての麻薬

彼らを窒息させるその手は 青白くただれ

彼女が惜しめば惜しむほど 君は彼女を求めるようになる

忘れ去らなきゃならない思考なんて 幼い頃にはなかったのに

 

彼女は 苦痛

彼女は君の奥底まで舐め入ってくる

彼女は 苦痛

神が授けた生ぬるい快楽

 

*1: この曲において「彼女(she)」とは「美(beauty)」(および、作詞者のリッチー自身の言葉では「欲望(desire)」)のことを指す。

*2:この曲のタイトルにもなっている“She is suffering”は、よく誤解されているが、「彼女は苦しんでいる」という意味ではない。脚注1で触れたように、「彼女(she)」とは「美 (beauty)」を指し、sufferingは現在進行形ではなく名詞である。したがって、「彼女(she)=苦痛(suffering)」となる。美というものは、あらゆる煩悩を生み出す。この歌は、美に魅惑されると同時に苦しめられる者のことを歌っている。

OF WALKING ABOЯTION / MANIC STЯEET PЯEACHEЯS

“私は知っていた。いつか私が死ぬということを。そして、私が死ぬ前には、二つの出来事が起こるだろうということを。第一に、私は自分の人生すべてを後悔するだろうこと。第二に、私は自分の人生すべてをもう一度やり直したいと思うだろうこと。”*1

 

生とは 死の振り子に吊るされた鉛の錘子

純潔であろうとなかろうと 傍観者であろうと受刑者であろうと

わかりきった真実 無関心はどんなものだって呑み込んでしまう

ヤク中も アル中も 売春婦も この国のモラルの自滅だって*2

 

負け犬 ホラ吹き 詐欺師だろうとインチキ野郎だろうと

誰もそいつらに関心を持ちやしない 誰もが有罪なんだ*3

お前は 間抜けで わけもわかっちゃいない 可哀想な子供

 

我々はみんな 歩く中絶児*4

シャローム シャローム*5 誰もが自分の子供達を愛する*6

我々はみんな 歩く中絶児

シャローム シャローム 地平線なんてありはしない

 

ムッソリーニ*7は 肉屋の鉤に吊るされ

ヒトラー*8は お前らの魂に寄生するウジ虫の中に蘇る

ホルティ*9の死体は 世界中に中継され

ティソ*10は蘇る 闘牛の惨劇

 

軍服の切れ端 だだっ広い暗澹とした廃墟

道徳的良心 お前には人に見せるような傷なんてないって?

それなら“X”の野球靴でも履いて 車でも洗ってろ*11

 

我々はみんな 歩く中絶児

シャローム シャローム 誰もが自分の子供達を愛する

我々はみんな 歩く中絶児

シャローム シャローム 地平線なんてありはしない

 

小さな家に住む小人達

ウジ虫のように卑劣で めくらで 役立たず

何の罪もなく虐殺された人々の血は 我々の誰しもに染み付いているんだ

 

誰の責任だって? お前の責任だ

誰の責任だって? お前の責任だ

誰の責任だって? お前の責任だ

誰の責任だって? お前の責任だ

誰の責任だって? 

 

*1:アメリカの作家ヒューバート・セルビー・Jr(Hubert Selby, Jr)のインタビューからの引用。生涯に渡り極端に陰鬱な作品を書き続け、多くの熱狂的ファンをよんだ。代表作は、Last Exit to Brooklyn(『ブルックリン最終出口』河出文庫)。同作の中の“The Queen Is Dead”というフレーズは、The Smithsのアルバムタイトルにも用いられた。

*2:詳しくは脚注4で述べるが、この曲のテーマは、人々の無関心こそが世の中で最も強大な悪を生み出すということ。我々は、ヤク中・アル中・売春婦といった人々を、善良な自分とは無関係な「異常者」と見なすことで、一面的に理解する(=無関心である)。そうして我々は、こういった人々の排除・無視・隠蔽に従事するようになる。このような我々にできることは、後述するように、自分自身の悪を認めることである。そうすることではじめて、「異常」というレッテルを貼られ、社会から排除・無視・隠蔽されてきた者達にも、同じ人間としての関心を向けることができるようになる。

*3:詐欺師のような人間も、決して悪人として生まれたわけではなく、周囲の人々の(当人の回りの人々というよりは、広く世間一般の人々に見られる)無関心こそがそのような悪人を作り出したということ(おそらく、フランスの哲学者ジャン・ポール・サルトル実存主義に基づく主張)。我々はこのような者達に「異常者」のレッテルを貼ることで、いとも容易く彼らを一面的に理解(≒無関心)する。そうすることで我々は、自分と彼らとの共通点を見出さずにいられる。自分は彼らとは全く異なる存在であるところの「正常者」であるというわけだ。この「善良な正常者」であるという自己認識こそが、我々を、自らの悪に対して極めて鈍感にさせるのである。

*4:「歩く中絶児(Walking Abortion)」は、アメリカの過激派フェミニスト、ヴァレリー・ソラナス(Valerie Solanas)が、著書S.C.U.M. Manifestの 中で用いた表現。S.C.U.Mは、Society for Cutting Up Menの略であり、同著書名を日本語に訳すと、『男性根絶宣言』となる(また、S.C.U.Mは「人間のクズ」を意味するscumとダブル・ミーニング)。この著作においてソラナスは、すべての女性は団結し、男性を皆殺しにして世界に平和をもたらさねばならないというトンデモ思想を説いている。その根拠は、男性は生物の進化過程で誤って生まれてきた性であり、女性こそが完全な性であること、そして、男性はその不完全さを隠蔽するために女性を暴力的・制度的に支配している、というもの。ソラナス自身の言葉を引用すれば、「男性は、生物学的な事故である。Y(男性)遺伝子は、できそこないのX(女性)遺伝子であり、できそこないの染色体の対なのだ。言い換えれば、男性は、できそこないの女性であり、歩く中絶児、遺伝子の段階で中絶された存在なのだ」。ソラナスは、世界中の男性の抹殺と、卵子のみによる子孫繁殖の研究(ただし研究が成功するまで限られた男性は生かしておく)を目的とする「男性根絶団」という団体を設立する。しかし、ソラナスの思想は他のフェミニストから全く支持されず、男性根絶団のメンバーはソラナス一人だけだったとも言われている。ソラナスは、幼い頃から父親に性的虐待を受けており、家出した後も売春をして暮らしていたことから、男性に対する憎悪を強く持っていた。

 余談であるが、変人奇人好きで有名なアメリカの画家アンディ・ウォーホルは、ソラナスを気に入り、スタジオに出入りさせ、自らの映画に出演させたりもした。しかし、後にウォーホルは、ソラナス自作の脚本をボツにしたことをきっかけに彼女の恨みを買い、彼女に銃撃される羽目になる。ソラナスにしてみれば、自分の唯一の理解者だと思っていたウォーホルに裏切られたというところだろうか。被弾しながらもかろうじて生き延びたウォーホルは、これを機に一転して変人奇人嫌いになったと言われている。

 この曲のタイトルにもなった「歩く中絶児」という表現は、ソラナスにとっては男性の不完全さを示すためのものであったが、この曲では、男性に限らず全ての人間が持つ不完全さを示すために用いられている(この意味では、ソラナスに対する皮肉とも取れる)。この曲の主なテーマは、「誰もが有罪」というフレーズがあるように、人は誰しもがこの世に蔓延る悪に加担しているということ。まったく善良な人間なんてどこにもいないということ。例えば、ユダヤ人の大虐殺といったファシズムの暴虐は、決して一握りの極悪人達が生み出したものなどではない。それは、権威に支配されることを心のどこかで望む私達の、自立した思考の欠如が生み出したものなのである。私達は知らず知らずのうちに悪を行う。そして、知らず知らずであるからこそ、それは世界に最も強力に蔓延する悪となる。この世の最大の悪を生み出すのは、決して極悪人などではなく、自分は悪とはまったく無関係だと信じ込んでいる善良な人間達なのである。この点は、ハンナ・アーレントの「悪の陳腐さ、凡庸さ」も参照のこと(NHK解説委員会 視点・論点ハンナ・アーレントと“悪の凡庸さ”」http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/191681.html)。

*5:ヘブライ語で「平和」を意味する。挨拶の言葉としても用いられる。

*6:自分の子供達を心から愛するような人間が、同時に残虐な行為に加担したりもする。一説には、ヒトラーは菜食主義者であり、愛犬家でもあったと言われている。

*7:イタリアの政治家、ベニート・ムッソリーニ(Benito Mussolini)。ファシズム思想の提唱者。第一次世界大戦後に国家ファシスト党を結党、総帥としてファシズム運動を展開する。後に首相に任命され、 ファシズム政権を樹立、独裁政治を行う。第二次世界大戦において、当初は中立的立場を取っていたが、後にナチス・ドイツと同盟を組むことを決断。1943 年、ファシスト党内でのクーデターにより失脚。その後、イタリア社会共和国(1943~45年まで、ローマ以北のイタリアに存在した国家)および共和ファシスト党イタリア社会共和国の政党)の指導者を務めるも、敗戦にともない再び失脚。1945年、裁判により銃殺、遺体はミラノのロレート広場に吊るされた。

*8:ドイツの政治家、アドルフ・ヒトラーAdolf Hitler)。第一次世界大戦後、国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)の指導者として、アーリア民族中心主義、反ユダヤ主義を掲げた政治活動を行う。1933年にドイツ国首相となり他の政党や政敵を弾圧、翌年には大統領の権能を継承し、独裁者となる。ヒトラーは国家の三権を掌握し、ナチズム運動を国家として展開する支配体制を築いた(ナチス・ドイツ)。アーリア人をはじめとする北方人種こそが世界を指導するにふさわしいとし、黄色人種・黒色人種・ユダ ヤ系・スラブ系などを迫害した。その他、障害者・同性愛者・前衛芸術家・ナチスに反する政治団体・宗教団体などを、アーリア人の血を汚す者として迫害する。また、自国領土の拡大のための侵略政策を進め、第二次世界大戦を引き起こす原因となった。戦中のユダヤ人に対するホロコーストは、人類の負の遺産として今も語り継がれる。1945年、ナチス・ドイツの崩壊にともない、包囲されたベルリン市内の総統地下壕内で自殺。

*9:ハンガリーの軍人・政治家、ホルティ・ミクローシュ(Horthy Miklós)。第二次世界大戦中、事実上の国王を務める。ハンガリーソ連スターリン体制による侵攻から守るため、ナチス・ドイツと協力体制を組む。1938年、反ユダヤ法を施行。これらのことから、ファシズムの象徴的存在と見なされるようになった。ただし、ホルティ自身は反ナチスであったと言われ、ナチス・ドイ ツへの迎合も、自国を守るための不本意ながらの決断だったとも言われる。また、ホルティが本当に反ユダヤ主義者であったかどうかは、今でも議論が分かれ るところである。近年、「愛国者」「祖国の救済者」としてハンガリー国民から再評価され、ブダペストに銅像が建立されたが、ホルティの評価については、依然、ホルティを支持する右派と、反ホルティの左派の間で対立が見られるままである。

*10:チェコスロバキアの政治家・聖職者、ヨゼフ・ティソ(Jozef Tiso)。スロバキア共和国の首相と大統領を務める。第二次世界大戦中、スロバキア共和国ナチス・ドイツと協力体制にあり、約7万人ものユダヤ系住民 をドイツの強制収容所に移送し、死に追いやった。1947年、ティソは戦犯として裁判にかけられ、絞首刑に処された。ティソ体制のスロバキア共和国は、ナチス・ドイツの傀儡政権であったと言われている。

*11:“X”は、アメリカの黒人公民権運動活動家マルコム・X(Malcom X)のこと。アメリカで最も激しい黒人解放運動を展開したことで知られる。1965年、暗殺。歌詞のこの一文は、解放運動・政治闘争すらも無思想に商業化・ファッション化する人々への皮肉。

IFWHITEAMEЯICATOLDTHETЯUTHFOЯONEDAYIT’SWOЯLDWOULDFALLAPAЯT / MANIC STЯEET PЯEACHEЯS

(※タイトルを読みやすくすると、IF WHITE AMERICA TOLD THE TRUTH FOR ONE DAY IT’S WORLD WOULD FALL APART*1となります)

 

“来週木曜日は、ライジング・タイドの生放送、ロナルド・レーガン*2祝賀式典をお届けします。ホストはヘイリー・バーバー*3スペシャルゲストにマーガレット・サッチャー女史*4をお迎えして、前大統領の83歳の誕生日をお祝いします。参加チケットは1枚1000ドル、しかし、式の様子はGOP*5 TVにて無料でご覧頂けます”

 

完璧さの象徴 日焼けした肌 ナパーム弾*6

グレナダ*7 ハイチ*8 ポーランド*9 ニカラグア*10

誰を我々のモラルの象徴として選ぶべきか

俺はたった今 ハリウッドの悲劇について考えている

 

ビッグ・マック*11 スマック*12 リヴァー・フェニックス*13

さあさあみんな微笑んで

キューバやメキシコだって 俺たちの規律を食い止めることはできなかったし*14

まったくお前らのアイドル達は この世の奈落を教えてくれる

なのにお前らのモラルは どこまでいっても表面的

 

クール グルーヴィー 朝 気分は爽快*15

ティッパー・ゴア*16だって俺の親友だったし

俺は自由の国が大好きさ

星条旗や ママの手作りアップルパイも

 

英保守党は「ユニオン・ジャックには黒はない」*17なんて言うし

民主党は「星条旗には白が足りない」なんて言う

 

コンプトン *18やハーレム*19では ヒモ男が司祭をファックし

白人達は新たなモラルの救世主を見つけ出したんだ

政府統計 重要なのはそいつらの肌がどれだけ白かったかってことさ

スラム街での発砲なんて 誰も真面目に取り扱いやしない*20

 

爽快な朝 一日の始まりに目覚ましのコーヒーはいかが?

白人特権 悩みなんてすべて吹き飛ばしてくれます

何でもナンバーワン、ベスト、俺が口を挟む隙もない

俺はモラル・マジョリティーにお仕えするためにここにいるんだから*21

 

クール グルーヴィー 朝 気分は爽快

ティッパー・ゴアだって俺の親友だったし

俺は自由の国が大好きさ

星条旗や ママの手作りアップルパイも

 

ザプルーダー*22は世界初のオナニー野郎

世界が初めて味わった 磔刑にされた神の恩寵

我々は「ユニオン・ジャックには黒が足りない」と言うし

我々は「星条旗には白が多過ぎる」と言おう

 

ブレイディ・ビルなんかクソ喰らえ*23

ブレイディ・ビルなんかクソ喰らえ

連中が言うには 

「もし神が人類を創造したのなら サム・コルトこそが人類を平等にした」*24

 

*1:アメリカのコメディアン・批評家・諷刺家であったレニー・ブルース(Lenny Bruce)からの引用。「ある日もし白人アメリカが真実を明かしたならば、その世界は崩れ落ちるだろう」。

*2:アメリカ第40代大統領(1981年~1989年)。かつてはカリフォルニア州知事であり、俳優でもあった。

*3:アメリカの政治家で、第62代ミシシッピ州知事を務めた(2004年~2012年)。

*4:イギリス第71代首相(1979年~1990年)。イギリス初の女性首相であり、保守的・強硬な性格から、「鉄の女」の異名を持つ。

*5:GOPはGrand Old Partyの略。アメリカの共和党の別称。

*6:アメリカの洗練されたライフスタイルと、戦争国家としての一面が対比される。

*7:1959年のキューバ革命以降、カリブ海地域は冷戦下の東西対立構造に巻き込まれていくこととなり、アメリカにとって当地域の親ソ勢力を排除することが課題となった。1983年、カリブ海に浮かぶ島国グレナダでクーデターが起きる。グレナダが「第二のキューバ」となることを恐れたアメリカは、レーガン大統領の決断のもと、武力介入を行った(グレナダ侵攻)。これはアメリカにとって、ベトナム戦争以来の大規模な軍事侵攻となり、結果はアメリカ側の大勝利に終わった。

*8:ハイチでは、1957年~86年にかけて、デュヴァリエ父子による恐怖政治が行われていた。「世界で最も浅ましい国の一つ」と称されるまでに至ったこの恐怖政治に、経済・軍事援助を惜しまなかったのがアメリカであった。アメリカにとってこの独裁国家は、キューバ革命以後、左傾化しつつあったカリブ海地域にあって、革命の防壁の役目を果たしていたからだ。85年、ハイチ国内で反政府運動が急速に拡大した際、デュヴァリエ(子)の海外逃亡をお膳立てしたのもアメリカであった。ハイチの独裁政治とアメリカ支配は裏表の関係にあったのである(浜忠雄, 2011年,「ハイチ史における植民地責任:『アメリカによる軍事占領』をとおして」)。

*9:アメリカは、共産圏を崩壊に追い込むための要所として、ポーランドを重要視した。ソ連ポーランドへの軍事介入を阻止し、反ソ勢力に物資援助を行った。ア メリカの介入は、ポーランド民主化に大きく貢献することとなり、現在、ワルシャワにはレーガン大統領の銅像が建てられている。

*10:ニカラグアでは、1979年、反政府勢力によって、三代にわたるソモサ家の独裁政権が打破された(サンディニスタ革命)。アメリカは、革命後のニカラグアに対して、親ソ勢力を排除するための軍事介入を行った。これを受けニカラグアは、自国に対する軍事行動の違法性を主張し、1984年、違法性の承認や損害賠償などを求め、国際司法裁判所 (ICJ) にアメリカを提訴した(ニカラグア事件)。1986年、ICJはアメリカの違法性を認定し、損害賠償を命じたが、アメリカは賠償を履行せず、結局アメリカの賠償はないまま、ニカラグアの請求取り下げを受けて、ICJは1991年に裁判終了を宣言した。

*11:ご存知、マクドナルド社が販売する大型ハンバーガー。

*12:俗語でヘロインを指す。

*13:アメリカの俳優。ヘロインとコカインの過剰摂取による心不全で死亡(享年23歳)。

*14:軍事・政治・経済・文化などの領域におけるアメリカ支配(アメリカナイゼーション)のことを指す。

*15:coolやgroovyは、典型的なアメリカ国民が使う言葉。また、朝っぱらからとにかく健康的というのも、典型的なアメリカ国民のイメージ。

*16:アメリカの第45代副大統領アル・ゴアの妻(2010年離婚)。暴力的・性的表現を含む音楽を批判し、レコードに“Parental Advisory”のステッカーを貼ることを義務付けるようキャンペーン活動を行ったことで知られる。このステッカーが貼られた作品は、大手の販売店では 購入することができない(自由の国って素晴らしい!)。フランク・ザッパジョン・デンバーといったミュージシャンが彼女を辛辣に批判し、中でもフランク・ザッパは、彼女を「文化に対するテロリスト」と評した。

*17:1980年代、イギリスのネオナチによる黒人排斥運動のスローガンとして掲げられたフレーズ。また、イギリスのカルチュラル・スタディーズの研究者、ポール・ギルロイの著作名でもある(Gilroy, P. (1987) 'There ain't no Black in the Union Jack': The Cultural Politics of Race and Nation, University of Chicago Press.)。ネオナチのスローガンをアイロニカルに題したこの著作は、イギリスにおける黒人の政治・文化参加に大きく貢献した。

*18:ロサンゼルスにおける貧困層の居住地域。人口の大半を、アフリカ系、ヒスパニック系が占める。

*19:ニューヨークにおける、かつての貧困層の居住地域。1990年代の治安改善政策により、現在は都市開発が進んでいる。

*20:保守派にとって、殺人事件の重要性は、被害者が白人であるかどうかで決まる。黒人同士の事件や、白人による黒人の殺害は重要な事件とは見なされず、メディアで報道すらされない。

*21:モラル・マジョリティー(The Moral Majority)は、アメリカの保守派キリスト教徒による政治団体。1979年創設、1989年解散。レーガン体制を支持した極右・権威主義的団体とし て知られる。妊娠中絶反対・国防力強化などを主張し、同性愛者の迫害、国民のキリスト原理主義への転換を図った。歌詞のこの一文は、財政支援と引き換えに当団体に迎合したレーガン大統領に対する皮肉。

*22:エイブラハム・ザプルーダー(Abraham Zapruder)。ケネディ大統領暗殺の現場を偶然ビデオに撮影していた人物。このビデオのおかげで、ケネディ暗殺についての政府の公式見解に疑問が投げかけられるようになった。

*23:ブレイディ・ビル→「ブレイディ法」の通称。拳銃の自由販売を規制し、販売時には購入者の人物査定を行うことを義務付けた法律である。1993年に制定、 翌年施行(2004年に失効)。レーガン大統領暗殺未遂事件の際に銃弾を浴び、半身不随になった報道官のJ. ブレイディにちなんで名付けられた。この法律は、一見まともなものに思えるが、実際には、黒人やその他人種的マイノリティを査定で落とし、銃を保持する権利を奪うという(白人の貧困層は頻繁に犯罪を起こしていたが、白人であるというだけで査定に落ちることはまずなかった)人種差別的な法律であったとされる。

*24:“God created men, Colt made them equalは、米国の銃器メーカー、コルト社の創業者サミュエル・コルトが用いたスローガン。

YES / MANIC STЯEET PЯEACHEЯS 

“この女も、この女も買えます。こいつもここにいるし、こいつもここにいます…。みんな売り物です”*1

 

「売り物か?」だって? マヌケ野郎はいつもバカなことを聞くわ

「処女か?」だって? いい?処女はみんな嘘付きなのよ*2

私は自分が一体何を怖がっているのかもわからないし 

一体何を楽しめるのかさえもわからない

まったく気が滅入るわ お金を手に入れたって何ひとつ自分の思い通りにならないのよ

 

この憐憫に蝕まれた裏通りでは 何だって金で買うことができる

たった200ドルで 誰でもビデオの中の神を手に入れることだってできる*3

彼は男の子 だけど女の子がご所望ならペニスを切断すればいい

髪を結わせてファックしてもいいし お望みならリタって名前で呼んでもいいんだぜ  *4

 

私は 食べ 着飾り 体を洗い… 私はまだ感謝の言葉を述べることもできるし

吐いて がたがた振えて 意気消沈しても まだ家族を気遣うことだってできるわ*5

でも 叫ぶことも 悲鳴を上げることもできず 

痛みを取り除くために自分自身を傷付け続ける

 

私は連中に“T*6”をするの 24時間 週7日 1年中

煉獄*7の円環 ここで溺死しようとも それを肯定する奴はいつだっているし

社交界の名士達や 優しさを見せたりなんかする害虫どものための まったく笑える場所

まさに崖の底の救急車ってやつ*8

 

この憐憫に蝕まれた裏通りでは 何でも金で買うことができる

200ドルさえあれば誰でも ビデオの中の神を手に入れられる

彼が男の子で 女の子がご所望なら ペニスを切断すればいい

髪を結わせてファックしてもいいし お望みならリタって名前で呼んでもいいんだぜ

 

私は 食べ 着飾り 体を洗い… まだ感謝の気持ちを述べることもできるし

吐いて がたがた振えて 意気消沈してても まだ家族を気遣うことだってできるわ

でも 叫ぶことも 悲鳴を上げることもできず 

痛みを取り除くために自分自身を傷付け続ける

 

権力は欲望を肥大させ 弱者はそのどちらにも縁がない

50ドル追加されたって この昏睡状態に性欲なんて沸き上がるはずもないし

孤独 孤独 これがモーセの11番目の戒めなのね*9

 

私について たったひとつの確かなこと

それは 私の身体にまだ使われていない部分なんてこれっぽっちも残ってないってこと

不快感は恥だっていうことを示すための 哀れみ もしくは苦痛

私が愛した人 憎んだ人 みんな私から去っていくの

 

この憐憫に蝕まれた裏通りでは 何だって金で買うことができる

たった200ドルで 誰でもビデオの中の神を手に入れることだってできる

彼は男の子だけど 女の子がご所望ならペニスを切断すればいい

髪を結わせてファックしてもいいし お望みならリタって名前で呼んでもいいんだぜ

 

権力は欲望を肥大させ 弱者はそのどちらにも縁がない

50ドル追加されたって この昏睡状態に性欲が沸き上がるはずもないし

孤独 孤独 これがモーセの11番目の戒め

 

痛いようにするな ただひたすら従え 横になれ 客の言う通りにしろ

この地獄を天国と呼んでもいいわ どうせ似たようなもんだから

陰気な午後にはいつも 私は自分自身がわからなくなるの

 

“2ドルなら胸。3ドルなら尻。5ドルならおまんこで楽しめます。あるいは、胸を舐めるのも構いません。どちらでもお好きな方をお選び下さい”

 

*1:イントロのサンプリングは、イギリスのドキュメンタリー映画Hookers, Hustlers, Pimps and their Johns(売春婦、男娼、ポン引き、その客達)(Beeban Kidron監督, 1993年)からの引用。You Tubeで閲覧可能(イントロ部分は17:47~)https://www.youtube.com/watch?v=hBhiw1r0fDc

*2:処女の売春婦の方が高値で売れるため、多くの売春婦は、性交経験があっても自らを処女と偽る。

*3:処女を装う売春婦が妊娠すれば「聖母マリア処女懐胎」となり、彼女は神(イエス)を孕むことになる。売春婦を孕ませた男(客)は、代金の200ドルと引 き換えに、「処女」から生まれた子供を手にすることができる。「ビデオの中の神(a God on video)」とは、その子供が、本当の神ではなく、嘘の処女懐胎によって生まれてきたフェイクの神であるから。

*4:売春婦に出産させた子供を、性の玩具にして楽しむ大人達の様子が描かれている。子供が男の子だった場合、外見を女の子らしくするために、髪型を変え、名前 を変え、更には性器を切り取るなどという残虐な行為が行われる。これは、子供の虐待による人間性の剥奪(dehumanization)を意味しており、 キリスト教における神の人間性の否定(神が人間を超越した存在であること)と対比されている。

*5:心に深い傷を追う女性が、自分が至って普通の人間であると思い込みたいがために、体裁を繕っている様子を指す。

*6:“T”はtossのこと。スラングで「手コキ」を意味する。

*7:天国と地獄の間にあり、天国にふさわしい善人へと浄化されるまで、あらゆる苦行を受け続ける場所のこと。

*8:ambulance at the bottom of the cliff イギリスやアメリカでしばしば使用される表現であり、ある問題の原因に対処しようとせず、その結果にばかり対処している様子を指す(崖から人が落ちてしまうという問題に対し、崖の上にフェンスを作ろうとせず、崖の下に救急車を待機させるという様)。

*9:モーセの十戒への付け加え。